
はじめに
臨床現場でポジショニングクッションを使わない日はないと言っても過言ではありません。褥瘡予防、拘縮予防、安楽な姿勢保持——目的は様々ですが、日々の業務のなかで「とりあえず手元にあるクッションを入れる」という選び方になってしまっている方も少なくないのではないでしょうか。
一方で、「メーカーが多すぎて、結局どれを選べばいいのか分からない」という声もよく耳にします。実際、ポジショニングクッションを取り扱うメーカーは数多くあり、見た目やパッケージだけでは違いが分かりにくいのが正直なところです。カタログを見比べても、サイズや形状の違いは分かっても、「なぜこの素材が使われているのか」「どんな場面に向いているのか」までは読み取りにくいものです。
今日は、その判断軸となる素材の違いに焦点を当てて整理していきます。取り上げるのは以下の5製品です。
いずれも臨床現場でよく見かける、あるいは今後見かける機会が増えるであろう製品です。それぞれの素材的な特徴を知っておくことで、目の前の対象者に対して「なぜこのクッションを選ぶのか」を根拠を持って説明できるようになることを目指します。
ポジショニングクッションについて
具体的な製品紹介に入る前に、ポジショニングを支える構造そのものを整理しておきましょう。
ポジショニングという行為は、次の要素の組み合わせで成り立っています。

もちろんマットレスやベッド本体の選定も重要な要素ですが、それらは対象者ごとに大掛かりな入れ替えが難しい場合も多く、日々の業務のなかで柔軟に調整しやすいのは「クッション」の部分です。そのため今回は、クッションに焦点を絞って掘り下げていきます。
良いクッションの条件はシンプルです。広い接触面積で身体の形状に沿い、圧を分散しながら快適な肌触りを保つこと。人の身体は真っ直ぐではなく、部位ごとに凹凸や重さの偏りがあります。その形状に対して重力に対して安定して支えられるか、そして肌に触れる面が不快感を与えないかどうかが、クッションの質を左右します。
この考え方は、褥瘡ケアの分野でも体圧分散用具の基本原理として整理されています。体圧分散は、身体をマットレスに沈み込ませることで骨突出部に集中する圧力を周辺組織へ分散させる「沈める(immersion)」機能、身体の凹凸に合わせてマットレス自体が変形し接触面積を広げる「包む(envelopment)」機能、そしてエアマットレスの圧切替のように「接触する部位そのものを時間とともに変化させる(change in contact area over time)」機能という、3つの性質の組み合わせで成り立っているとされています(Matsuo et al., 2011)。このうち、今回紹介するような静止型のクッションに直接関わるのは主に「沈める」「包む」の2つですが、クッションが単に柔らかいだけでなく、身体の形状に沿って「沈み込み」「包み込む」構造を持つことが重要だという点は、今回紹介する各製品の素材設計にも共通する視点です。
なぜ圧の分散がそれほど重要なのかについては、人体の生理的な仕組みからも説明できます。1930年に発表された古典的な研究では、皮膚の毛細血管に微細な圧力測定をおこない、動脈側の毛細血管内圧がおおむね32mmHg程度であることが示されました(Landis, 1930)。この値は現在でも褥瘡予防領域で毛細血管の閉塞が起こりうる圧力の目安として広く引用されています。
ただし、この32mmHgという数値は「これを超えたら即座に組織が壊死する」という単純な閾値ではありません。イヌを用いた古典的な実験では、圧力の大きさだけでなく、どれだけの時間その圧力が持続したかが組織損傷の程度を左右することが示されており、比較的低い圧力でも長時間持続すれば、高い圧力を短時間受けた場合と同程度の組織損傷につながり得ることが報告されています(Kosiak, 1961)。2007年発表のレビューでも、「32mmHgを超えないようにすればよい」という考え方は単純化しすぎであり、実際の組織損傷は圧力の大きさと持続時間の組み合わせで決まるという点が改めて指摘されています(Gefen, 2007)。つまり「圧力=身体の重みそのもの」であり、クッションによって荷重の受け止め方を変えることは、圧力の大きさを下げるだけでなく、特定の部位に荷重がかかり続ける時間を短くするという意味でも、毛細血管レベルの血流を守るための直接的な介入だと捉えることができます。
また、姿勢を保持しているのは対象者本人だけではなく、その身体を支えているベッドやマットレスなどの「寝床環境」全体である、という視点も重要です。ポジショニングを検討する際、私たちはつい対象者の身体ばかりを観察しがちですが、実際には姿勢や活動はベッド・マットレスの構造、機能、寸法、素材といった「姿勢環境」からも強く影響を受けています。クッションの素材を理解することは、この姿勢環境という大きな枠組みの一部を掘り下げる作業でもあります。
選定時に見るべきポイント
素材と一口に言っても、実際には「中の素材」と「表面の素材」の両方を見る必要があります。それぞれの観点を整理すると、以下のようになります。

これらを踏まえると、結局のところ機能面のスペックだけでなく「誰が使うか」という視点を含めて選んでいくことが、実践的には最も重要になります。同じクッションでも、体格や介助量、自立度が異なる対象者に対しては、最適な選択が変わってくるからです。
たとえば、寝たきりで自力での体動がほとんどない方であれば、多少重くても形状保持力の高いクッションを選び、一度作った姿勢をできるだけ長く維持できることを優先する、という考え方が成り立ちます。一方で、ある程度自分で寝返りができる方や、日中は離床時間が長い方であれば、軽くて出し入れがしやすいクッションの方が、対象者自身の動きを妨げにくいというメリットがあります。
また、介助者側の視点も欠かせません。夜勤帯で人手が限られる時間帯や、一人の介助者が複数の対象者を担当する場面では、「重いけれど高性能」なクッションよりも、「多少性能では劣っても、誰でも短時間で扱える」クッションの方が、結果的に現場全体のケアの質を底上げすることもあります。介護・看護分野における身体的負担軽減の観点からは、患者・利用者の移動や体位変換を補助する福祉用具の活用が、介助者の筋骨格系の不調を予防する上で有効である可能性が、複数の介入研究を統合した系統的レビューでも示されています(Hegewald et al., 2018)。ポジショニング用具の重量や扱いやすさは、対象者の快適性だけでなく、介助者自身の身体を守るという観点からも軽視できない要素だと言えるでしょう。素材の特性を理解するということは、単に製品スペックを覚えることではなく、こうした現場の状況全体を見渡した上で判断できるようになるということでもあります。次の章から、実際の5製品を素材の観点で見ていきましょう。
紹介①:単一素材タイプ
まずは、比較的シンプルな構造を持つ2製品から見ていきます。単一素材タイプは、構造がシンプルな分、扱いやすさや軽さに優れる傾向がある一方で、荷重をしっかり受け止める力という点では、後述する複合素材タイプに一歩譲る場面もあります。まずはその代表格である2製品の特徴を確認していきましょう。
タイカ株式会社「ウェルピーHC」(公式ページ)
もっとも見かける機会が多く、広く普及している製品です。中材はウレタンチップで、表面にナイロン素材が使われているため中身が滑りやすく動きます。
表面は触ってみるとややチクチク・ザラザラとした質感があります。扱いは簡単で、細かい形状づくりというよりは、 満遍なく様々な部位に使える汎⽤性の⾼さが特徴です。⼀⽅で単⼀素材のためか、 荷重をかけても**ふわっと抜けるような印象を受けることもありますが、 軽量で誰でも扱いやすいという点は臨床現場において⼤きなメリットです。
特に人手が限られる夜間帯や、頻繁に体位変換が必要な場面では、この「扱いやすさ」が選定の決め手になることも多いでしょう。
ケープ株式会社「エニモ(Anymo)」(公式ページ)
「使いやすさ」に徹底的にこだわり、 誰でも使いやすいというコンセプトで作られた製品です。 中材には⼤⼩のウレタンフォームが混在しており、 単⼀サイズのチップよりも通気性がよく乾きやすいという特性があります。
⾜や上肢に使うタイプでは、 ⾊分けされた部分が伸びやすい素材になっており、どこに荷重をかければよいかが視覚的にも分かりやすく設計されています。この視認性の⾼さは、 経験の浅いスタッフでも迷わず使える⼯夫と⾔えるでしょう。素材⾃体はウレタン⼀種 (⼤⼩)のため、「乗る」感覚はウェルピーHC よりやや強い程度の印象を受けます。
紹介②:複合素材・特殊構造タイプ
続いて、より複雑な構造を持つ3製品を見ていきます。単一素材タイプと比べると、荷重の受け止め方や形状保持力に明確な違いが出てきます。中材が2種類組み合わされていたり、単一素材でも繊維同士が絡み合う特殊な構造になっていたりと、それぞれのメーカーが工夫を凝らしている部分です。荷重をしっかり乗せたい場面や、形状をキープしたい場面で選択肢に入ってくる製品群と言えるでしょう。
株式会社ヒトラボ「マーブルクッション(M・able)」(公式ページ)
今回紹介する中でもっとも荷重が「乗る」、土嚢のようなしっかりとした感触が特徴の製品です。中材には特殊なビーズとストロー状のパイプという2種類の素材が組み合わされています。
コンセプトとしても「乗る」ことを前面に打ち出しており、中身がよく動くため身体の形状に合わせて変形し、荷重をしっかりと受け止めます。ふわふわとした感覚はなく、その分ガシッと固定される感覚は好みが分かれるところです。もう少し動いてほしいと感じる場面もある一方で、安定性という点では今回の5製品中もっとも高いと言えるでしょう。
足に使うダブルタイプでは、外側だけ素材の量を増やす工夫がされており、下肢が外側に開いてしまうのを防ぎやすい形状になっているなど、パーツごとの設計が細部までよく考えられています。表面質感はエニモに近いザラつきです。
なお、マーブルクッションは介護保険レンタル対象品(体位変換器・車いす付属品)に該当しており、レンタルでの導入がしやすい点も、選定における実務的なメリットとして押さえておきたいポイントです。
LAC×CAPE「ロンボ ポジショニング ピロー&クッション」(輸入元ページ/発売元ページ)
ドイツ発のブランドとして知られている製品で、2種類のバリエーションが展開されています。
- ロンボ・フィル(白):ハニカム構造のウレタンのみを使用。通気性が良く柔らかで、身体全体を優しく包み込む
- チップ入りタイプ:やや硬めのチップが入っており、形状保持がしやすい
- 特に興味深いのは、 チップ⼊りタイプの⼆層構造です。下層にチップ、上層に柔らかい素材が配置されやすい仕組みとなっており、⼟台がしっかりしていながら表⾯では圧をしっかり分散できるようになっています。もし⼟台が柔らかく⽀持⾯だけが硬いという構造だった場合、 ⾝体は不安定になり不快感につながりますが、この製品はその点がよく考えられています。 感触としてはマーブルクッションに近いものの、それよりもやや柔らかさを感じる仕上がりが印象です。
i-SONEX(アイ・ソネックス)「ナーセントEX」(公式ページ)
5 製品の中で唯⼀、特殊な構造を持つ製品です。中材はポリエステル繊維チップという単⼀素材ですが、繊維同⼠が絡み合うことで、形状を保持できるという特徴があります。ロンボやマーブルクッションのような流動性はない代わりに、 形状をキープする⼒が⾮常に強いのがポイントです。
また、 表⾯の柔らかさは 5 製品中随⼀で、 触れた瞬間に「気持ちの良い布団」のような感触があり、対象者の緊張が抜けやすいという利点があります。
ナーセントEXは介護保険 福祉用具貸与(体位変換器)の対象品でもあり、同シリーズには「ナーセントパット」もラインナップされています。
素材タイプで整理すると
ここまで紹介した5製品は、素材の構造という観点で大きく3つのグループに整理できます。

同じ「クッション」というくくりであっても、中身の構造が異なれば、荷重への応答も、扱いやすさも、まったく違ったものになる。この違いを知っているかどうかが、現場での選択の質を左右すると言えるでしょう。

実践編:どう選ぶか?
素材の違いを理解したところで、実際の臨床場面でどう選択に落とし込むかを考えてみましょう。
たとえば、90歳の方の下肢にクッションを入れたいという場面を想定してみます。
このように、理想的な特性を持つ製品であっても、対象者の身体状況や介助者の負担、レンタルの有無といった環境要因によって、最終的な選択は変わってきます。「どれが一番良いクッションか」という問いには、実は唯一の正解がないということです。
大切なのは、それぞれの製品が持つ素材の特性——荷重の乗りやすさ、形状保持力、軽さ、表面の質感——を理解した上で、目の前の対象者にとって何を優先すべきかを判断できるようになることです。たとえば、拘縮が強く自力での体動がほとんどない方であれば、形状保持力の高いナーセントEXやマーブルクッションが有効な場合が多いでしょう。逆に、ある程度自分で寝返りや姿勢修正ができる方であれば、軽くて扱いやすいウェルピーHCやエニモの方が、対象者自身のセルフケアの妨げになりにくいという考え方もできます。
クッションを複数個使ったポジショニングが除圧に有効であることは、看護・創傷ケア分野の研究でも報告されています。米国の研究グループは、健常な参加者を対象に、標準的な枕を使用した場合と、専用に設計されたウェッジ(くさび形)ポジショニング用具を使用した場合とで、仙骨部・肩部・臀部/大腿部の体圧をそれぞれ測定・比較しました。その結果、標準的な枕と比較して、専用に設計されたウェッジ型のポジショニング用具の方が、仙骨部を含む広い範囲でより大きな圧の低減が得られたことが報告されています(Bush, Leitkam, Aurino, Cooper, & Basson, 2015)。この研究は健常な参加者を対象とした限定的な検証ではあるものの、同じ「クッションを当てる」という行為でも、素材や設計次第で除圧効果に明確な差が生まれることを示す一つの根拠と言えるでしょう。今回紹介したような素材特性の異なるクッションを組み合わせて使うという発想も、こうした知見と地続きにあります。
素材を知っているということは、単に製品知識が増えるということではなく、選択の引き出しが増えるということです。日々の業務のなかで「なんとなく」選んでいたクッションを、根拠を持って選べるようになることが、今回の内容から得られる最大の実践的な価値ではないでしょうか。
さらに、ここで整理した判断プロセスは、他の対象者にもそのまま応用できます。たとえば背部や側臥位でのポジショニングを考える場面でも、考え方の順番は同じです。まず「対象者の身体状況(拘縮の有無、自力での体動の可否)」を確認し、次に「介助者の負担(重量、扱いやすさ)」を考慮し、最後に「導入のしやすさ(レンタルの可否、費用)」という現実的な制約と照らし合わせる。この3つの軸を順番に検討していくことで、感覚だけに頼らない、再現性のある選定プロセスを組み立てることができます。
一つの製品に固執せず、複数の候補を用意した上で対象者ごとに使い分けるという発想も重要です。今回のケーススタディのように、第一候補が難しければ第二候補、第三候補へと柔軟に切り替えていく姿勢そのものが、質の高いポジショニングケアを支える土台になると言えるでしょう。
環境設定:クッションだけで完結しない視点
最後に、クッション単体の話から少し視野を広げておきたいと思います。今回の内容の冒頭でも触れたように、ポジショニングは「重力」「対象者の体重」「支持面(ベッド・マットレス・シーツ)」「クッション」という要素の組み合わせで成り立っています。
つまり、どれだけ優れたクッションを選んでも、その下にあるマットレスやベッドとの相性が悪ければ、期待した効果は得られません。たとえば、非常に柔らかいマットレスの上にしっかりとした形状保持力を持つクッションを重ねた場合、クッション自体は形を保っていても、マットレスごと沈み込んでしまい、結果として身体が不安定になってしまう、といったことが起こり得ます。逆に、硬めの支持面であれば、クッションの柔らかさや圧分散性能がより活きてくる場面もあるでしょう。
今回はクッションの素材に焦点を当てて解説しましたが、実際の臨床現場でポジショニングを組み立てる際には、クッション単体の性能だけでなく、それが乗る支持面全体との組み合わせで評価するという視点を忘れないようにしたいところです。
この点は、褥瘡予防・管理ガイドラインでも重視されています。褥瘡発生リスクのある対象者に対しては、標準的なマットレスではなく、高仕様フォームマットレスや体圧分散マットレスの使用が強く推奨されており、体圧分散用具の選択にあたっては対象者のADLレベルや圧の再分配、ずれへの対応など、複数の観点から総合的に判断することが求められています(日本褥瘡学会、褥瘡予防・管理ガイドライン第4版)。つまり、クッションだけを見て「良い・悪い」を判断するのではなく、支持面全体としてどのような体圧分布になっているかを評価する視点が、ガイドラインレベルでも求められているということです。
マットレス側で見ておきたいポイント
マットレス自体にも、経年劣化による「へたり」が生じます。特に臀部にへたりが生じると、背上げ座位をとった際に底付き(マットレスが底まで沈み込んでしまう状態)が起こりやすくなります。へたりの進行速度は使用頻度やマットレスの素材によって異なりますが、目安としては5〜6年ほどでの交換が推奨されています(須釜ら、2013)。どれだけ良いクッションを選んでも、土台となるマットレスがへたっていれば、期待した圧分散効果は得られません。
見落とされがちですが、ベッドメーキングの方法も体圧分散に影響します。シーツの敷き方によって骨突出部にかかる圧力が約1.8倍まで上昇するという報告もあり、体圧分散寝具にシーツをかける際は、ピンと張らず、ある程度の緩みやたるみを持たせることが望ましいとされています(須釜ら、2013)。しわやたるみの発生しにくさという点では、ボックスシーツの方がフラットシーツよりも有利だったという報告もあります(須釜ら、2013)。
クッションはマットレスの上だけとは限らない
もう一つ、現場で意外と知られていないのが「間接法」という考え方です。クッションやタオルを身体に直接当てるのではなく、マットレスの下に差し込むことで、間接的に姿勢をサポートする技術です。直接身体に触れないため、体位変換のような刺激を与えずに姿勢を微調整でき、患者の身体的・心理的負担を抑えられるという利点があります。今回紹介した5製品はいずれも身体に直接当てる「直接法」を想定した製品ですが、支持面全体を調整する選択肢として、こうした間接的なアプローチがあることも知っておく価値があるでしょう。
なお、どれだけ優れた体圧分散寝具を使用しても、圧迫が完全になくなるわけではなく、体位変換そのものは引き続き必要だとされています。国際的な褥瘡予防ガイドラインでも、体圧分散用具を使用してもなお踵のような突出部位には圧がかかりやすいことが指摘されており、可能な限り踵を支持面から浮かせる「フローティング」が推奨されています。クッションや体圧分散用具は万能ではなく、対象者に接するたびにその適応と機能性を評価し直すという姿勢が欠かせません。
具体的には、ポジショニングを見直す際、次のような順序で環境全体をチェックしていくと、抜け漏れが少なくなります。
この3ステップのうち、現場では2番目の「クッションの選定」にばかり注意が向きがちですが、1番目の支持面の状態や、3番目の組み合わせ全体としての評価が抜けてしまうと、せっかく良いクッションを選んでも本来の効果を発揮できません。マットレスやベッドの選定・調整については、また別の機会に扱えればと思いますが、日々のケアのなかでも「クッションだけでなく、支持面との組み合わせ全体を見る」という意識を持っていただければと思います。
Q&A
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クッションは何個くらい組み合わせて使うのが良いのでしょうか?
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記事中で紹介した研究(Bush et al., 2015)でも、単⼀のクッションではなく複数のポジショニング⽤具を組み合わせることで、より広い範囲の除圧効果が得られたことが報告されています。具体的な個数の正解はなく、対象者の⾝体の凹凸に合わせて、頭頚部・腰部・下肢など複数箇所に個別に当てていく考え⽅が基本になります。 しかし、 臨床上、 多くのクッション⽤具を組みわせると共有が難しく、3 個以内での組み合わせを推奨します。
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体圧分散マットレスを使っていれば、クッションによるポジショニングは不要になりますか?
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いいえ。国際的な褥瘡予防ガイドラインでも、体圧分散⽤具を使⽤してもなお踵などの突出部位には圧がかかりやすいことが指摘されており、体位変換やポジショニングは引き続き必要とされています。マットレスとクッションは「どちらか」ではなく「組み合わせ」で考えるものです。
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5つのメーカーのうち、介護保険でレンタルできるものはありますか?
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記事内で紹介した 5 つのメーカーの主な製品は、介護保険 福祉⽤具貸与(体位変換器)の対象品ですが、⼀部対象外もあります。
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マットレスの交換タイミングの目安はありますか?
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記事内で紹介した⽂献(須釜ら、 2013)によれば、マットレスのへたりは使⽤頻度や素材によって異なるものの、⽬安として 5〜6 年ほどでの交換が推奨されています。クッション⾃体の耐⽤年数については、今回参照した情報源の中には明確な記載がありませんでした。
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体格が大きい方や、逆にとても痩せている方では、クッションの選び方は変わりますか?
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記事内で直接検証したデータはありませんが、一般的な考え方として、骨突出が強い方(痩せて骨が目立つ方)ほど、荷重を受け止める「乗る」感覚の強いクッション(マーブルクッションなど)が適する場面が多いとされます。逆に体格が大きい方では、支持面全体でどう荷重を分散するかという視点がより重要になります。
参考文献
- 日本褥瘡学会教育委員会ガイドライン改訂委員会「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)」日本褥瘡学会誌, 17(4), 487-557, 2015. 体圧分散用具の選択に関するエビデンスベースの推奨がまとめられた、国内の褥瘡ケアにおける基本文献です。マットレス・クッションの選定を「なんとなく」ではなく根拠に基づいて行いたい方に、まず参照してほしい一冊です。
- Matsuo, J., Sugama, J., Sanada, H., Okuwa, M., Nakatani, T., Konya, C., & Sakamoto, J. Development and validity of a new model for assessing pressure redistribution properties of support surfaces. Journal of Tissue Viability, 20(2), 55-66, 2011. 体圧分散用具の性能を「沈める(immersion)」「包む(envelopment)」「接触面の経時的変化」という3つの機能から整理し、実際にウレタンフォームとエアマットレスでこれを定量評価した査読付き論文です。クッションの素材設計がなぜそのような構造になっているのかを理解する上での基礎知識として役立ちます。
- Landis, E. M. Micro-injection studies of capillary blood pressure in human skin. Heart, 15, 209-228, 1930. 毛細血管内圧がおよそ32mmHgであることを示した古典的な生理学研究です。褥瘡予防領域で「なぜ圧迫を避ける必要があるのか」を説明する際に、今なお繰り返し引用される原典です。
- Kosiak, M. Etiology of decubitus ulcers. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 42, 19-29, 1961. イヌを用いた実験により、組織損傷は圧力の大きさだけでなく持続時間との組み合わせで決まることを示した古典的研究です。「32mmHgを超えなければ安全」という単純化を避け、圧力と時間の両面から圧迫を考える視点を与えてくれます。
- Gefen, A. The biomechanics of sitting-acquired pressure ulcers in patients with spinal cord injury or lesions. International Wound Journal, 4(3), 222-231, 2007. 毛細血管閉塞圧32mmHgという数値を絶対的な閾値として扱うことの限界を指摘した総説です。体表面の圧力だけでなく、深部組織にかかる応力も含めて考える必要があるという、より現代的な理解を示しています。
- Bush, T. R., Leitkam, S., Aurino, M., Cooper, A., & Basson, M. D. A comparison of pressure mapping between two pressure-reducing methods for the sacral region. Journal of Wound, Ostomy and Continence Nursing, 42(4), 338-345, 2015. 標準的な枕と専用設計のウェッジ型ポジショニング用具とで、仙骨部などの体圧を比較した研究です。クッションの設計・素材次第で除圧効果に差が出ることを示す実証データとして、今回の記事の実践編の根拠としています。
- Hegewald, J., Berge, W., Heinrich, P., Staudte, R., Freiberg, A., Scharfe, J., Girbig, M., Nienhaus, A., & Seidler, A. Do technical aids for patient handling prevent musculoskeletal complaints in health care workers? A systematic review of intervention studies. International Journal of Environmental Research and Public Health, 15(3), 476, 2018. 福祉用具の活用が介助者の筋骨格系の不調予防にどの程度有効かを、複数の介入研究を統合して検証した系統的レビューです。クッションの重量や扱いやすさを選定基準に含めるべき理由を、介助者側の安全衛生の観点から裏付けています。
- 須釜淳子ほか「高齢者・障害者のための寝具の周辺機能」バイオメカニズム学会誌, Vol.37, No.3, 2013. マットレスのへたりの目安や、ベッドメーキング・シーツの張り方が体圧分布に与える影響など、支持面のメンテナンスに関する具体的な知見がまとめられています。該当する英語文献が見当たらなかったため、国内文献を引き続き参照しています。
- European Pressure Ulcer Advisory Panel, National Pressure Injury Advisory Panel, & Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. The International Guideline (3rd ed., E. Haesler, Ed.). EPUAP/NPIAP/PPPIA, 2019. 欧州・米国・環太平洋の褥瘡予防学会が共同で策定した国際ガイドラインの原典です。体圧分散用具を使用してもなお踵などの突出部位に圧がかかりやすいこと、対象者ごとに適応を再評価する必要があることなどが示されています。
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