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臨床のナゼを力に変える!EBPの実践ガイドー臨床疑問の作り方からAI活用まで解説ー

はじめに:なぜ今、臨床疑問が重要なのか?

患者さん一人ひとりに最適なリハビリテーションを提供するため、私たちは常に最善の選択を模索しています。その強力な道しるべとなるのが、EBP(Evidence-based Practice:根拠に基づいた実践)です。

EBPは、1990年代初頭に医療分野で生まれた考え方で、「利用可能な最良の科学的根拠」「臨床家の専門知識」そして「患者さんの価値観・意向」と統合し、患者さんのケアの質を最大化しようとするアプローチです。単に論文を読むだけでなく、これら3つの要素をバランス良く組み合わせることが、患者さんにとって最善の結果をもたらす鍵となります。もし、どれか一つでも欠けてしまうと、かえって患者さんに不利益が生じる可能性も指摘されています。

EBPを理解する上で、その基礎となったEBM(Evidence-based Medicine:根拠に基づいた医療)について触れておきます。EBMは主に医学領域で発展し、Sackettらによって「個々の患者さんのケアに関する意思決定において、現在の最良のエビデンスを誠実に、明確に、かつ賢明に利用すること」と定義されました。20世紀後半の医学の目覚ましい進歩と、より質の高い医療への社会的要請を背景に広まりました。

Evidence based medicine is the conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence in making decisions about the care of individual patients.(Sackett,1996)

このEBMの考え方は、リハビリテーションを含む看護や薬学など、様々な医療専門分野へと応用され、それぞれの専門性を反映したEBPとして発展してきました。つまりEBPは、EBMの原則をより広範な医療実践に適用した、私たちセラピストにとっても不可欠な概念なのです。EBPは、質の高い安全な医療の提供はもちろん、費用対効果の改善や、患者さんが自らの治療に積極的に参加することを支援する上でも重要な役割を担います。

そして、このEBPを実践する上での出発点であり、最も重要な核となるのが「臨床疑問」の明確化です。日々の臨床で「この患者さんには何がベストなのだろう?」「この介入は本当に効果があるのだろうか?」といった疑問を持つこと。それこそがEBPの第一歩です。曖昧な疑問のままでは、必要な情報を効率的に集めることは難しく、結果として質の高い意思決定から遠ざかってしまいます。

この記事では、セラピストがEBPをスムーズに実践し、日々の臨床疑問を解決していくための具体的なステップやツールについて、分かりやすく解説していきます。

EBP実践のリアル:カナダ研究が示すセラピストの課題と、継続のためのヒント

EBPの重要性は理解していても、臨床現場で継続的に実践していくことは容易ではありません。その実態を示す注目すべき研究があります。

多くのセラピストがEBP実践レベルを維持できていない現実

2023年に発表されたカナダの大規模な縦断研究(Iqbal et al., 2023)は、理学療法士と作業療法士のEBP実践における衝撃的な事実を明らかにしました。この研究は、1,700名以上の新卒セラピストを3年間にわたり追跡調査し、EBPの実践状況が時間とともにどう変化するかを分析したものです。

その結果、驚くべきことに、調査対象となったセラピストの約3人に2人(64%)が、卒業後3年間でEBPの活用度が減少していることが判明しました。

4つの軌跡パターンが示す現実(セラピストのEBP実践レベルに合わせて4つパターンに分類)

グループ割合初期レベル3年後の傾向
グループ115.1%中程度のEBP使用低いEBP使用(減少)
グループ219.9%低いEBP使用中程度のEBP使用(増加)
グループ348.8%中〜高レベルのEBP使用中低レベルのEBP使用(減少傾向)
グループ416.2%高いEBP使用高いEBP使用(維持)

このデータで特に注目すべきは、

最大のグループ(48.8%)が「中~高レベル」から「中~低レベル」へとEBPの実践度が低下している点です。これは、養成校でEBPの重要性を学んだセラピストであっても、臨床現場に出てから数年でその実践が難しくなっている現状を示唆しています。

なぜEBPの実践は難しくなるのか?考えられる要因

EBPの実践度が低下する背景には、個人レベルと組織レベルの要因が複雑に絡み合っていると考えられます。

個人レベルの要因
経験への過度な依存臨床経験を積む中で、自身の経験則をエビデンスよりも優先してしまう。
過去の成功体験への固執以前うまくいった方法にこだわり、新たな情報やアプローチを探求しなくなる。
同僚・先輩への相談の手軽さ文献検索よりも、身近な人に聞く方が手っ取り早いと感じる。
組織レベルの要因
時間的な制約日々の業務に追われ、文献検索や情報を吟味する時間が確保できない。
リソース不足必要なデータベースへのアクセスが制限されていたり、継続的な学習機会が少なかったりする。
EBPを推奨・支援する組織文化の欠如職場がEBPの実践を評価し、サポートする環境にない。

EBPを継続できるセラピストの特徴とは?

一方で、全体の約16.2%のセラピストは、高いEBP実践レベルを維持していました。このグループの分析からは、EBPを継続するための重要なヒントが見えてきます。

研究結果によれば、EBP継続の最も重要な要因は、知識や技術的なスキルそのものよりも、EBPに対する「積極的な態度」でした。具体的には以下の点が挙げられます。

患者さん中心の価値観:患者さんの安全と個別性を最優先に考える姿勢
EBPによる成功体験:EBPを実践し、それによって患者さんが実際に改善したというポジティブな経験
組織的サポート :EBPの実践を後押しする職場環境や同僚の存在
継続的な学習意欲:研修会や勉強会へ積極的に参加し、常に新しい知識を求める姿勢

実際に、EBPを維持しているセラピストからは、「エビデンスを用いた結果、患者さんが目に見えて良くなった時、EBPの価値を心から実感した」「同僚と症例について活発に議論できる環境が、学び続ける大きなモチベーションになっている」といった声が聞かれています。

これらの声は、EBPの実践が単なる「やらされ仕事」ではなく、患者さんの改善という具体的な成果と直結し、セラピスト自身の成長にも繋がることを示しています。EBPを「追加の負担」ではなく、「より良いケアを提供するための必須ツール」と捉え、日常の臨床判断プロセスに自然に組み込んでいることが、高い実践レベルを維持する秘訣と言えるでしょう。

EBP実践の羅針盤:臨床疑問から評価・改善へ繋げる5ステップ

EBPを効果的に進めるためには、体系的なプロセスを理解することが重要です。一般的に、EBPは以下の5つのステップで実践されます。これらのステップは、日々の臨床で抱いた疑問を具体的な行動に変え、最終的に患者さんのアウトカムを向上させるための道筋を示しています。

Step 1:臨床疑問の明確化 (ASK)

日々の臨床で遭遇する患者さんの問題点や、自身の知識・技術に対する疑問を、具体的で答えられる形の臨床疑問に変換します。この最初のステップがEBPの成否を左右すると言っても過言ではありません。

臨床疑問には、大きく分けて以下の2種類があります。

後景疑問(Background Question)
疾患の一般的な知識、病態生理、治療法の概要など、基本的な情報を問う疑問です。
例:「脳卒中片麻痺患者に対する長下肢装具の一般的な適応基準は何ですか?」
解決策:教科書、信頼できる医学系ウェブサイト、専門家への質問など。

前景疑問(Foreground Question)
特定の患者に対する具体的な介入の効果、診断の精度、予後などを問う、より個別化された疑問です。
例:「脳卒中発症後3ヶ月のAさんに対して、麻痺側上肢へのCI療法は、従来の作業療法と比較して、日常生活動作(ADL)の自立度をより向上させますか?」
解決策:この前景疑問を解決するために、次のステップであるPICO/PECOフレームワークを用いた構造化と、文献検索が必要になります。 前景疑問を効果的に構造化し、検索可能な形にすることが、EBPの最初の重要な関門です。

Step 2:情報収集(ACQUIRE)

明確化された臨床疑問(特に前景疑問)に基づいて、関連する最新かつ最良のエビデンス(研究論文など)を効率的に検索・収集します。PubMedやGoogle scholarなどのデータベースを活用し、適切なキーワードで検索するスキルが求められます。

Step 3:情報の批判的吟味(APPRAISE)

収集したエビデンスが、本当に信頼でき、臨床的な価値があり、目の前の患者さんに適用可能かを批判的に評価します。研究デザインの質、結果の統計的な有意性だけでなく臨床的な重要性、バイアスの有無などを吟味する能力が必要です。

Step 4:患者への適用と実践(APPLY)

吟味したエビデンスを、患者さん自身の価値観や意向、生活環境、そしてセラピスト自身の臨床経験や専門技術と統合し、具体的な治療計画として実践します。EBPは、エビデンスを機械的に適用するのではなく、個別性を重視した意思決定が重要です。

Step 5:プロセスおよび結果の評価(ASSESS/AUDIT)

実践した結果、患者さんの状態やアウトカムがどのように変化したかを評価します。期待通りの効果が得られたか、予期せぬ問題は生じなかったかなどを検証し、その結果を自己の臨床実践の改善や、さらなる新たな臨床疑問の発見へと繋げます。

これらの5つのステップは、一度きりで完了するものではなく、継続的な学習と質の改善のための循環的なプロセス(サイクル)です。Step 5の評価から新たな疑問が生まれれば、再びStep 1に戻り、このサイクルを繰り返すことで、セラピストは常に最新の知識と技術をアップデートし、患者さんに対してより質の高いリハビリテーションを提供し続けることができるのです。

臨床疑問を構造化するPICO/PECOフレームワーク

EBPのステップ1で明確化すべき「前景疑問」。これをさらに具体的で検証可能な形にするための強力なツールが、PICOまたはPECOフレームワークです。これらのフレームワークは、臨床疑問の要素を整理し、文献検索やエビデンスの評価を効率的に行うための共通言語となります。

PICO/PECOの基本構成要素

PICO(またはPECO)は、以下の4つの要素の頭文字から名付けられています。

P (Patient / Population / Problem:患者・集団・問題)
どのような特徴を持つ患者さん(年齢、性別、病期、重症度など)や集団、または抱えている問題について疑問を持っていますか?
・例:脳卒中発症後6ヶ月の右片麻痺を呈する70代男性、慢性的な肩関節周囲炎に悩む50代女性など

I (Intervention:介入) / E (Exposure:曝露)
どのような治療法、リハビリテーション手技、検査法、予防策などの「介入」に注目していますか? もしくは、特定の環境因子や生活習慣などの「曝露」について考えていますか?
・介入の例:課題指向型訓練、ミラーセラピー、特定の装具の使用など
・曝露の例:長時間の座位姿勢、特定のスポーツ活動への参加など

C (Comparison:比較対照)
その介入(または曝露)を、何と比較したいですか? 既存の標準的な治療法、別の介入法、プラセボ(偽薬・偽治療)、または介入なし(経過観察)などが比較対象となり得ます。
・例:従来の理学療法、集団運動療法、積極的な介入なしなど

O (Outcome:結果・アウトカム)
その介入(または曝露、比較対照との比較)によって、患者さんにどのような結果(変化)が生じることを期待していますか? または、どのような点を評価したいですか? 機能改善、ADL(日常生活活動)向上、疼痛軽減、QOL(生活の質)向上、合併症の発生率などがアウトカムとなり得ます。
・例:歩行速度の改善、FIM(機能的自立度評価法)の得点向上、VAS(疼痛スケール)の低下、SF-36(健康関連QOL尺度)の改善など

PICO/PECOを用いた臨床疑問の具体例(脳卒中リハビリテーション)

このフレームワークを使うと、日常臨床で抱く漠然とした疑問も、明確な形に落とし込めます。

例1:曖昧な疑問
「脳卒中患者さんの歩行能力を上げるには、トレッドミルトレーニングと普通のストレッチ、どっちがいいんだろう?」

PICOに変換すると…

P: 脳卒中発症後、歩行に課題を抱える患者さん
I : トレッドミルを用いた歩行練習
C: ベッド上での他動的ストレッチを中心とした介入
O: 歩行の自立度(例:監視なしでの屋内歩行が可能になるか)や歩行能力(例:6分間歩行距離、歩行速度)の向上

例2:上肢機能に関する疑問
「慢性期の脳卒中片麻痺患者さんの上肢機能に対して、ロボット支援リハビリは効果があるのだろうか?」

PICOに変換すると…

P: 発症後6ヶ月以上経過した慢性期脳卒中片麻痺患者さんで、上肢機能障害を有する方
I : ロボット支援型上肢リハビリテーション
C: ロボットを使用しない従来の上肢機能練習
O: 上肢機能の改善(例:Fugl-Meyer Assessment上肢運動機能スコアの向上)、ADLにおける上肢使用頻度の増加

脳卒中リハビリテーションの現場では、課題指向型練習、電気刺激療法、装具療法など、多岐にわたる介入が存在し、評価すべきアウトカムもADL、QOL、バランス能力、認知機能など様々です。PICO/PECOフレームワークは、このような複雑な状況下で、セラピストが「どの患者さんに」「どのような介入を」「何と比較して」「どのような結果を期待するのか」という思考を整理し、エビデンスに基づいた最適な治療アプローチを選択するための羅針盤となります。

PICOの「O」を深掘り!患者さん中心の目標設定へ:「真のアウトカム」と「代用アウトカム」

PICOフレームワークの中でも、特に設定に悩むことが多いのが「O(アウトカム)」ではないでしょうか。リハビリテーションにおけるアウトカムとは、介入の結果として「患者さんがどのような状態になることを目指すのか」「どのような能力の改善を期待するのか」を具体的に示したものです。このアウトカム設定は、EBPを実践し、患者さんにとって本当に意味のあるリハビリテーションを提供する上で極めて重要です。

ここでは、アウトカムを考える上で非常に大切な「真のアウトカム(True Outcome)」と「代用アウトカム(Surrogate Outcome)」という2つの概念について、その違いと臨床における注意点を解説します。この理解は、Straus SEらによる名著「Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM」でも強調されている重要な視点です。

「真のアウトカム」と「代用アウトカム」:その違いとは?

真のアウトカム (True Outcome / Clinically Important Outcome)
患者さん自身が直接的に価値を感じ、生活の質の向上や健康状態の改善を実感できる結果を指します。これらは患者さんの日常生活や社会参加に直接的な意味を持つものです。
・例:「再び一人で安全にトイレに行けるようになった」「麻痺した手を使って食事ができるようになった」「趣味の園芸を再開できた」「元の職場に復帰できた」

代用アウトカム (Surrogate Outcome / Surrogate Endpoint)
真のアウトカムに影響を与えると「考えられる」中間的な指標や検査値などを指します。直接的に患者さんの生活の質を示すわけではありませんが、真のアウトカムと関連がある、あるいはそれを予測すると期待されて用いられます。
・例:「麻痺した下肢の筋力(MMT)が向上した」「肩関節の可動域(ROM)が拡大した」「バランス検査(BBS)の点数が上がった」「歩行速度が〇m/秒改善した」

なぜ「真のアウトカム」の視点がリハビリで不可欠なのか?

リハビリテーションの究極的な目標は、単に身体機能の数値を改善することではなく、患者さんがより質の高い、その人らしい生活を送れるようになることです。

例えば、脳卒中片麻痺の患者さんのリハビリで、「歩行速度が少し速くなった(代用アウトカム)」としても、それが「近所の友人宅まで一人で遊びに行けるようになった(真のアウトカム)」という具体的な生活の変化に繋がらなければ、患者さんの満足度やQOLの向上は限定的かもしれません。同様に、「麻痺手の筋力が向上した(代用アウトカム)」としても、「ボタンのかけ外しができるようになった(真のアウトカム)」という実用的な改善がなければ、患者さんの日常生活の困難さは残ったままになる可能性があります。

代用アウトカムの「落とし穴」と賢い活用法

代用アウトカムは、測定が比較的容易であったり、介入効果が短期間で現れたりするため、研究や臨床評価で頻繁に用いられます。しかし、その活用には注意が必要です。代用アウトカムの改善のみを追い求めてしまうと、患者さんにとって本当に大切な「真のアウトカム」を見失ってしまう危険性があるのです。

Straus SEらも、その著書の中で、代用アウトカムを用いる際にはその妥当性を批判的に吟味する必要性を指摘しています。「研究者が患者さんや臨床家にとって実際に重要なことの合理的な近似であるアウトカムを選択したと単に仮定するだけではいけない」と警鐘を鳴らしています。

Therefore, when they are used, we need to think critically about their validity and not just assume that the investigators have chosen an outcome that is a reasonable approximation to what actually matters to patients and clinicians.

患者さん中心の「真のアウトカム」を設定するために

では、どうすれば患者さんにとって本当に意味のある「真のアウトカム」を設定できるのでしょうか? その鍵は、患者さんやご家族との十分なコミュニケーションにあります。患者さんの価値観、生活背景、趣味、仕事、そして何よりも「リハビリテーションを通して何を実現したいのか」「どのような生活を取り戻したいのか」という具体的な希望や目標を深く理解し、共有することが不可欠です。

EBM(根拠に基づいた医療)の原則も、「現在の最良のエビデンス」を、「個人の臨床的専門知識」そして「患者さん固有の価値観と状況」と統合することの重要性を強調しています。Sackettらによれば、EBMの実践にはこれらの統合が不可欠です。

The conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence in making decisions about the care of individual patients. The practice of evidence-based medicine requires the integration of individual clinical expertise with the best available external clinical evidence from systematic research and our patient’s unique values and circumstances.

セラピストは、患者さんとの対話を通じて、具体的な「真のアウトカム」を共に設定し、それを達成するためのリハビリテーション計画を立案・実行していく必要があります。代用アウトカムは、真のアウトカムに至るための一つの有用な指標として活用しつつも、それ自体が最終目標とならないよう、常に患者中心の視点を持ち続けることが求められます。

もうPICO作成で悩まない!AI支援ツール「臨床疑問の構造化GPTs」活用ガイド

EBP実践の第一歩である「臨床疑問の明確化」。しかし、日々の業務の中で「どんな疑問を立てれば?」「PICOってどう作るの?」と悩むセラピストも多いのではないでしょうか。そんな時、心強い味方となるのがAI技術です。

今回は、臨床疑問やPICOの作成を効率的にサポートしてくれるAIツール「臨床疑問の構造化GPTs」をご紹介します。このツールは、ChatGPTのGPTs(カスタムGPT)機能を用いて開発されており、EBMのステップ1である「臨床疑問の明確化」を円滑に進めることを目的としています。

「臨床疑問の構造化GPTs」とは? ~初めての方向け基本操作~

「臨床疑問の構造化GPTs」のようなカスタムGPTを利用するには、まずChatGPTの基本的な使い方を理解しておく必要があります。

  1. ChatGPTへのアクセスと準備
    ・OpenAIの公式サイトからChatGPTのアカウントを作成(またはログイン)します。
    ・カスタムGPTの利用には、ChatGPT Plusなどの有料プランへの登録が必要となる場合があります。ご利用前にご確認ください。
  2. 「臨床疑問の構造化GPTs」の起動
    ・ChatGPT内の「GPTを探す(Explore GPTs)」などのメニューから「臨床疑問の構造化GPTs」と検索して見つけ、選択します。
  3. 対話の開始
    ・ツールが起動すると、チャット画面が表示されます。
    ・まずは、あなたが臨床で感じている疑問や課題、PICOで整理したい内容について、簡単な言葉で入力し、送信します。

専門的な知識や複雑な操作を必要とせず、ガイドに従って情報を入力していくだけで、臨床疑問を明確な形にすることができます。

「臨床疑問の構造化GPTs」によるPICO作成のステップ

上記の方法で対話を開始すると、ツールがあなたをガイドしてくれます。

  1. PICO要素に関する質問
    GPTsが、PICOの各要素(P:患者さん、I:介入、C:比較、O:アウトカム)について、順番に具体的な質問をします。
  2. 質問への回答
    あなたは、その質問に対して、できるだけ具体的に回答を入力していきます。
  3. 構造化された臨床疑問の完成
    全ての質問に答えると、あなたの回答内容に基づいて、PICO形式で整理された臨床疑問が自動的に生成・提示されます。

の対話形式のプロセスにより、専門的な知識や複雑な操作に不慣れな方でも、スムーズに臨床疑問を具体的な形に落とし込むことができます。

「臨床疑問の構造化GPTs」の主な特徴と利点

  • 対話形式によるPICOの構造化: 専門的な知識や複雑な操作を必要とせず、GPTsからの質問に順次回答していくことで、漠然とした疑問が具体的なPICO形式の臨床疑問へと体系的に整理されます。
  • 初心者にも利用しやすいインターフェース: 経験豊富な指導者に相談しながら疑問を整理していくような形で、臨床疑問作成のプロセスを支援します。
  • 効率的な疑問作成による文献検索の質の向上: 「適切な論文が見つからない」「検索結果が膨大すぎる」といった文献検索時の困難は、明確な臨床疑問を設定することで軽減される可能性があります。本ツールは、質の高い臨床疑問を効率的に作成するための出発点となります。

「臨床疑問の構造化GPTs」の実際の使用例については、以下のリンクをご参照ください。
(参考: https://chatgpt.com/share/68316e55-9d20-8011-86b4-c6dd6552dc55)

さらにステップアップ:応用的な使い方

「臨床疑問の構造化GPTs」でPICOが明確になったら、その情報を活用してさらにEBPを深めることができます。

他のカスタムGPTとの連携: 例えば「Pubmed検索式GPT」のような文献検索に特化したカスタムGPTに、作成したPICOを入力することで、より精度の高いPubMed用の検索式を効率的に作成できる可能性があります。

連携のヒント: ChatGPTの有料プランでは、会話中に「@」マークを入力すると、最近使用したカスタムGPTやピン留め(サイドバーに常時表示する機能)したカスタムGPTを呼び出し、対話の流れの中で連携させることができます。

臨床疑問を立てる上で重要な「機能的アウトカムへの着目」「生活環境や社会参加の考慮」「長期的な予後の視野」といった視点も、このツールとの対話を通じて自然と整理され、より質の高い臨床疑問の作成に繋がるでしょう。

EBPを日常の実践へ

本記事では、セラプストが質の高いリハビリテーションを提供するために不可欠なEBP(根拠に基づいた実践)と、その出発点となる「臨床疑問」の重要性について解説してきました。

EBPの実践は、時に複雑で時間がかかるものと感じられるかもしれません。カナダの研究が示すように、多くのセラピストがEBPの実践継続に課題を抱えているのも事実です。しかし、EBPを特別なことと捉えるのではなく、日々の臨床における患者への真摯な向き合い方の一つとして捉え、臨床疑問を明確にし、情報を収集・吟味し、患者と共に最適なケアを決定・評価していくというサイクルを意識することが大切です。

特にPICOフレームワークを用いた臨床疑問の構造化や、「真のアウトカム」を意識した目標設定は、EBPの質を高める上で欠かせません。そして今、AI技術の進化により、「臨床疑問の構造化GPTs」のようなツールが、これらのプロセスを強力にサポートしてくれる時代になりました。

日々の臨床で「なぜ?」「どうすればもっと良くできる?」という疑問を持ち続けること、そしてそれを解決しようと一歩踏み出すことが、セラピストとしての成長、ひいては患者さんのより良い未来に繋がります。

聞き慣れない言葉や新しい手法に臆することなく、本記事で紹介した知識やAIツールなども活用しながら、あなた自身のスタイルでEBPを実践し、日々のリハビリテーションをより豊かなものにしていきましょう。

Q&A

EBP(根拠に基づいた実践)とは具体的に何ですか? なぜ私たち理学療法士や作業療法士にとって重要なのでしょうか?

EBP(Evidence-based Practice:根拠に基づいた実践)とは、単に最新の研究論文を読むことだけではありません。「利用可能な最良の科学的根拠」「臨床家自身の専門知識と経験」、そして最も大切な「患者さんの価値観や意向」という3つの要素を、バランス良く統合して、個々の患者さんに最適なケアを提供しようとするアプローチです。 私たち理学療法士や作業療法士にとってEBPが重要なのは、このアプローチによって、日々の臨床判断の質を高め、より効果的で安全なリハビリテーションを提供できるようになるからです。また、患者さんが治療の意思決定に主体的に参加することを促し、結果として治療効果や満足度の向上にも繋がります。

前景疑問をPICOで構造化するメリットは何ですか?

「前景疑問」をPICO(Patient:患者、Intervention:介入、Comparison:比較、Outcome:結果)フレームワークで構造化するメリットは、疑問の焦点を明確にし、必要な情報を効率的に検索・収集できるようにする点にあります。PICOを用いることで、曖昧だった疑問が具体的な要素に分解され、文献データベース(PubMedなど)での検索戦略を立てやすくなり、結果として質の高いエビデンスにたどり着きやすくなります。これがEBP実践の第一歩となります。

PICOの「O(アウトカム)」を設定する際に、「真のアウトカム」と「代用アウトカム」の違いが説明されていましたが、改めて教えてください。なぜリハビリテーションで「真のアウトカム」を重視する必要があるのですか?

アウトカムの設定はPICOの中でも特に重要です。

リハビリテーションで「真のアウトカム」を重視する必要があるのは、私たちの最終目標が、単に筋力や可動域といった数値を改善することではなく、患者さんがより質の高い、その人らしい生活を送れるようになることを支援することだからです。代用アウトカムが改善しても、それが患者さんの実生活における具体的な活動能力の向上やQOLの改善といった「真のアウトカム」に結びつかなければ、リハビリテーションの意義は薄れてしまいます。患者さん中心のケアを行うためには、「真のアウトカム」を常に意識し、患者さんと共有することが不可欠です。

※本稿は、KNERCのオンラインサロン「ネルク・ベース」に投稿された記事・動画を基に、加筆・修正を行ったものです。

KNERC 橋谷裕太郎

参考文献

1) Sackett DL, Rosenberg WM, Gray JA, Haynes RB, Richardson WS. Evidence based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ. 1996;312(7023):71-2.

2) Swanson, J. A., Schmitz, D., Chung, K. C. (2010). How to practice evidence-based medicine. Plastic & Reconstructive Surgery, 126, 286-294

3) Claridge JA, Fabian TC. History and development of evidence-based medicine. World J Surg. 2005;29:547-553

4)Lqbal, Muhammad Zafar, et al. “Exploring if and how evidence-based practice of occupational and physical therapists evolves over time: A longitudinal mixed methods national study.” Plos one 18.3 (2023):

5)Straus SE, et al. Evidence-based Medicine; How to practice and teach EBM 5th ed.New York: Churchill Livingstone; 2019.

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